2010年から「武蔵野写真」というシリーズで写真を撮り、2013年には埼玉県立近代美術館で個展も開いた。元々のきっかけは自分の生まれ育った埼玉県の所沢を含んだ武蔵野地域はどうやら今とは随分と違う風景だったらしいという興味から始まる。大昔の文献などによると「見渡す限りの野」というのが武蔵野のステレオタイプな風景らしい。少し時代を近づけた100年ほど前の国木田独歩の時代でもそんな風景はほとんどなくなってしまっていたそう。そして我々が生きる現代の武蔵野は「見渡す限りの野」なんて当然なくなってしまっている。とはいえ、とりあえず歩きまわってみると「野」ではないにしても見渡す限りの○○は存在していることが分かってきた。見渡す限りの「田んぼ」「畑」「茶畑」「川」「公園」。高いビルに登って鳥瞰してみれば平面な町並みが広がっているけどそれは省くとして、武蔵野的原風景は広がっている。けど、この風景でさえ時代の流れで一瞬間に消えてしまうかもしれない。そして私は現在の武蔵野を再定義すべく、長期間に渡る定点観測的記録を始めた。これは大いなる武蔵野への郷愁であり、旅である。